オーレ!

闘牛士は異様に美しい。蒼白い肌。爪先立ちの細い身体。金色に光る衣装。雄牛を見つめる黒い瞳。雄牛も美しい。流れる黒い毛並み。つぶらな瞳は痛みで歪んだりはしない。彼らの交差しない視線には憎しみや怒りは見つからない。彼らは確かに戦っているのだが、そこにはどんな感情も含まれない。戦いのための戦い、洗練された美としての戦い。
闘牛場の中では、驚くほど血の存在感が薄い。
観客がオーレ!と叫ぶ中、牛はゆっくりと弱っていき、やがて予告なしにどうと倒れる。血の匂いは始めから終わりまで空気中に漂うことはない、乾いた空気に熱狂が乗って闘牛士の唇に赤みが戻る。
観客は確かに「死」に引き寄せられて集まっている。だが、それは血の匂いに惹かれているのではない。観客は死を観に行っているわけでもない。闘牛士が直面する死、「葉隠」に現されている武士道の心得のような覚悟としての死を感じに、人々は闘牛場に足を運ぶのではないだろうか。